
自分がADHD(注意欠陥・多動性障害)であると診断された時、仕事に就けないと不安になるかたも多いはず。しかし、諦めるのは早いです。ADHDでも働きやすい職場や職業を考えてみましょう。
ADHDとは?

ADHDとは「Attention Deficit Hyperactivity Disorder」の略で注意欠落や多動性障害のことを指します。具体的には、集中できず、貧乏ゆすりなどをやめられずじっとしていられない、そして衝動的に行動してしまうといった、主に3つの症状が見られる脳の機能障害です。
子どものころはこうしたことがあってもおかしくないのですが、大人になっても変わらず行動に現れていると仕事に支障をきたします。実際にどんな症状があるのでしょうか。
注意力が散漫になりがち
なかなか集中できず、言われた作業だけをきちんとこなすことができない場合があります。ケアレスミスが多くなり、大事なスケジュールを忘れてしまうことも。興味があるものを見つければ、仕事自体を忘れてしまうこともあります。
これは仕事だけでなくプライベートでも起こりえます。物をなくす、話を忘れる、遅刻するなどのミスを何度も起こしてしまうことも。本人が注意すれば良いという問題ではありません。
また、見た目でADHDと判断できませんから、周囲からは「注意力が足りないだけのうっかりさん」といった印象を持たれることが多いです。
この症状だけだと自分がADHDなのかそうでないのかわかりませんが、日常生活や仕事をするにあたって困っているなら、医師への相談をおすすめします。
不測の事態になるとパニックになる
想定外のトラブルなどに遭遇すると思考が停止し、パニック状態になります。
パニック状態の症状は人それぞれで、無言になり反応がなくなる場合や、泣き出したり全く見当違いなことを言い出す場合があります。
これは自分の頭で考えていた行動の流れが、外部的な要因により実行不可能になってしまったため、再度道筋を構築することができないことで起こっています。
作業中に話かけられる、電話が鳴るといったこと以外にも、机からボールペンが落ちただけでそれを拾う動作をいつするかでパニックになる場合もあります。自覚症状としてよく思考停止状態になる傾向がある時も医師に相談したほうがよいでしょう。
計画をうまく立てられない
仕事をする上で大切なスケジュールを立てるといった作業が難しい場合もあります。正確には、自分がやるべきことや予定を並べても優先順位がつけられないのです。
どれも重要なように思え、1つのことに取り掛かっても他のことが気になって失敗しがち。失敗を補填するための作業が増える上、成すべき作業が進まないので日々積み残しが増える一方という事態になります。
失敗と積み残しの悪循環で結果的に周りに迷惑をかけて「使えない人だ」という評価をつけられます。自分でも分かっているのに焦る一方で前に進めないため、自信もなくなります。
一つのことに集中すると周りが見えなくなる
意識が散漫になりがちなのと反対に、集中し始めると周りが一切見えなくなる人も。作業中に声をかけられても気がつかない、時間を守らず作業を続けるといった行動に繋がります。
身近なところで言えば、電車で降りるべき駅になっても読書やスマホの操作に夢中になり、乗り過ごす人も多いのではないでしょうか。もしそうしたことが自分によく起こっているのであれば、ADHDの可能性があります。
アスペルガー症候群・学習障害との違いは?
ADHDと区別がつきにくい障害に、アスペルガー症候群と学習障害があります。同じ発達障害ではありますが、どういった点に違いがあるのでしょうか。
アルペルガー症候群は、人とのコミュニケーションに問題を抱えていて、適度な距離感が掴めない・相手の気持ちを汲んであげることが難しいといった症状が見られます。周りからは協調性のない人だと思われることが多いです。
また、こだわりが強い部分があったり、そのこだわりのためなら、いくらでも集中できるくらいの力を発揮するところもあります。
不注意・多動性・衝動性が特徴的なADHDには当てはまりません。
学習障害(LD)について
知能の遅れは認められないものの、ある特定分野の学習について問題を抱えています。
例えば、本を読むことができない・計算ができない・字を書くことができないといったことです。
ADHDは、集中力がなく気が散りやすいためにミスをすることは多いですが、学習機能に問題はありません。
どんな仕事なら安心して取り組むことができるか

ADHDであるからといって決して仕事ができないというわけではありません。
職業の向き不向きはありますが、ADHDが認知されてきたことによってこうした人でも働ける環境を作ろうという動きも出てきています。
しかし、働ける環境を用意してもらうことを待つのではなく、自分の働ける職業を選ぶことも大切。どんな職業であれば働きやすいのか、また、働いていくための方法について紹介します。
マニュアルのある仕事
決められた作業がマニュアル化されている仕事がベストです。
ADHDの症状に「自分で計画を建てられない、作業内容を忘れる、単純作業が苦手」といった事例は多いです。
これらに対処するため、チェックリストや作業フローを明記したマニュアルが用意されていることで、業務内容を把握しやすくなりますし、確認しながら段階的に作業を勧められます。
上司から教えられても忘れてしまうことがありますが、すぐ見える場所にこうしたものが置いてあれば、自分で作業することも難しくありません。
具体的な仕事としては事務作業になります。例えば、通販やネットショップの受注業務などは、受け付けた注文を確認して発送作業を行う準備をするといった流れがあり、マニュアル化できていることも多いです。
お客様からの問い合わせや配送業者とのやりとりは、イレギュラー対応が発生しやすいので、他の方に任せたほうがよいかもしれません。
しっかりとフォローする人がいる職場
ADHDに対する理解がきちんとある職場であることも重要です。
最近ではADHDという言葉の認識も高まってきましたが、それゆえに偏見や差別の目で見る人も少なくありません。
「ADHDだから仕事をさせない、任せない」ということではなく、ADHDを抱える人がどういった仕事なら的確にこなせるかを考える必要があります。
そうして仕事の環境を整え、本人が困っている時に積極的にフォローできる雰囲気があるとベストです。これは企業の大きさに関わらず、ADHDの人が働く部署をきちんと上長が管理できていることが大切。
上司が忙しく常に不在にしている職場よりも、部下に声をかけて一緒に仕事をしているような職場がそうした環境だと言えます。
障害者枠で働くという選択肢
できるだけイレギュラーな状況が発生しない仕事内容、そして周囲のフォローがあれば、働く可能性は広がるとお話しました。
そしてもうひとつ、障害者枠で働くという道もあります。
ADHDと診断された人の多くは、一般雇用にするか、障害の内容を雇用先にしっかり説明した上で働く障害者雇用にするかで迷ったことがあると思います。
どちらにもメリットやデメリットは存在します。
一般雇用のメリットは、環境に恵まれれば能力を発揮でき、キャリアアップ、給与アップを目指せます。また、求人数も非常に多いです。
デメリットとしては、適応できない環境だった場合に精神的な負担が大きいことです。
障害者雇用のメリットは、ADHD独特の特徴を周囲が理解しようと努めます。問題となる部分ではなく、得意とする部分に焦点を当てた働き方も可能です。
デメリットは、長年勤務しても待遇面がなかなか変化しないという点です。今後改善する見込みはありますが、今のところは難しいと言わざるを得ません。
こんな仕事に就く時は注意

先ほどとは逆に注意すべき職業も存在します。マニュアル化できないその場の対応力が必要な接客業や、日々課題やノルマに取り組む必要のある仕事は難しいでしょう。
衝動性を抑えることは非常に難しいですし、パニック症状の引き金にもなる上、注意力のなさから大切なことを忘れがちになると本来持っている力を発揮できなくなってしまいます。
接客業は特に注意
イレギュラーの発生しやすい接客業はおすすめできません。
マニュアルにない対応やその場の判断力、コミュニケーション能力などが必要なため、会話中にパニックになってしまうことや相手の要望をうまく理解できず見当違いな回答をしてしまうことで、企業イメージのダウンにも繋がります。
ショップ店員のような店舗での接客業務以外でも、コールセンターの業務、営業職なども要注意です。
ノルマの厳しい仕事は難しい
納期やノルマに追われる仕事も難しいと言えます。
スケジュール立てる作業や優先順位を付けることが苦手ですので、納期に間に合わせるという仕事に就くことは厳しいでしょう。
同様にノルマに関しても毎日どれくらいの売上をどうやって達成し、そのためには何から行うべきかいうことを見出す力が必要になるので、ADHDの方には難しくなります。
本人の業務遂行能力以外でも、納期が守れないことやノルマクリアできないことで、職場で共に働く人たちから嫌がらせを受けることも予想されます。
チームプレイであればなおさらです。そうしたことから自分の働く意欲がなくなってしまい、社会復帰ができないようになってしまうこともありますので、こうした職場は避けるようにしましょう。
まとめ

ADHDは発達障害の1つと言われていますが、症状によっては普段接する上では問題ない場合もあります。
診断や治療によって改善することも多く、ADHDだからと深刻になり自信を失わないようにしましょう。もちろんそのためには周りの支援が必要なこともありますが、逆に前向きな姿勢で仕事と症状改善に取り組み、職場では他人から支援してもらえるような関係を築くことでお互いの信頼関係に繋がり、よりよい環境作りに役立つのではないでしょうか。
就職の際に、我慢や無理をして仕事に就いても症状が悪化する事が多く、さらに精神的な病気になる危険性もあります。自分がADHDであることを認識した上で、やりたいことや症状に対してどう向き合っているかをきちんと説明し、職場の理解を得られるようにしましょう。